「うちはパートさんの時給、最低賃金ぎりぎりなんです。今年もまた上がるんですよね……?」
最近、園長先生からこうしたご相談をいただくことが増えています。
2026年7月28日、厚生労働省の中央最低賃金審議会が、2026年度(令和8年度)の最低賃金引き上げの目安を示しました。
毎年秋以降に改定されるこの数字は、保育園の経営にも決して小さくない影響を与えます。
今回は、今回の目安の内容と、保育園として今から準備しておきたいことを整理します。
そもそも「最低賃金」とは?
最低賃金とは、事業主が労働者に支払わなければならない賃金の最低額を法律で定めたものです。
都道府県ごとに1時間当たりの金額(地域別最低賃金)が決まっており、正社員はもちろん、パート・アルバイト・臨時職員など、雇用形態を問わずすべての労働者に適用されます。
保育園でいえば、次のような職員の時給が対象になります。
- 延長保育やフリー保育を担当するパート保育士
- 給食室のパート調理員
- 事務パート、用務員
- 産休・育休代替の非常勤職員
「うちは保育士の給与は公定価格や処遇改善加算で決まるから関係ない」と思われがちですが、最低賃金は、そうした加算の仕組みとは別に、雇用形態を問わず全職員に適用される法律上の下限です。
パート職員の時給がこの下限を下回っていないか、毎年の確認が欠かせません。
何が変わるのか
2026年7月28日、中央最低賃金審議会は次の目安を答申しました。
①全国加重平均は1,121円から1,176円へ
現在の全国加重平均1,121円から、55円、率にして4.9%引き上げる目安が示されました。
前年度の引き上げ額66円は下回ったものの、依然として大きな上げ幅です。
②都道府県ごとにA・B・Cの3ランクに分かれ、引き上げ額が異なる
- Aランク(東京・大阪など6都府県):プラス54円
- Bランク(福岡・北海道・広島など28道府県):プラス56円
- Cランク(秋田・沖縄など13県):プラス56円
福岡県はBランクに区分されており、目安どおりであれば、56円の引き上げとなります。
今回は都市部より地方の引き上げ額が大きく、地域間の格差是正が意識された配分になっています。
③まだ「目安」の段階。確定は今後
今回示されたのは、あくまでも中央審議会としての目安です。
今後、各都道府県の地方最低賃金審議会が、地域の実情を踏まえて調査・審議し、独自に金額を答申します。
そのうえで異議申出の手続きを経て、都道府県労働局長が最終的な金額と発効日を決定します。
例年、10月以降に地域ごとに順次発効しますが、具体的な発効日は都道府県によって異なります。
福岡県の最終的な金額と発効日は、今後の地方審議会の答申を待つ必要があります。
保育園に特有の注意点
最低賃金の引き上げは、単に「パートさんの時給を上げる」だけでは済まないことがあります。
①賃金表の「逆転現象」
新しく入ったパート職員の時給が最低賃金の引き上げに合わせて上がる一方、勤続年数の長い正職員や主任クラスの基本給を時給換算した金額との差が縮まってしまうことがあります。
特に、賃金表の下位号給を長く据え置いている園では、経験年数と給与のバランスが崩れ、ベテラン職員の不満や離職につながりかねません。
②処遇改善等加算との整理
処遇改善等加算があることと、最低賃金法上の遵守義務は、別に考える必要があります。
加算の配分や賃金改善要件を満たしつつ、各職員の賃金が最低賃金を下回っていないかも確認しなければなりません。
③人件費への影響試算
延長保育担当や調理員など、時給制の職員が多い園ほど、今回の引き上げが年間の人件費に与える影響は大きくなります。
早めに試算しておくことで、次年度の予算編成や職員配置、採用時の時給設定にも余裕を持って対応できます。
対応しなかった場合のリスク
最低賃金を下回る賃金しか支払っていない場合、最低賃金法違反となり、労働基準監督署から是正を求められる可能性があります。
その場合、差額の遡及支払いが必要になるほか、地域別最低賃金を下回った場合には、最低賃金法により50万円以下の罰金の対象となることがあります。
とはいえ、多くの場合は、まず「知らないうちに下回っていた」という確認不足が原因です。
年に一度、パート・非常勤職員を含む全職員の賃金を最低賃金額と突き合わせるだけで、こうしたリスクの多くは防ぐことができます。
今から動いておきたいことリスト
□ 現在のパート・非常勤職員全員の時給を一覧化する
□ 福岡県の地方審議会の答申・発効日を、今後の報道や福岡労働局の発表で確認する
□ 引き上げ後の想定時給と現在の時給を比較し、影響を受ける職員を洗い出す
□ 正職員の賃金表の下位号給を点検し、賃金の逆転や接近が起きていないか確認する
□ 最低賃金の計算に含めない手当を除外し、正職員を含む全職員の時間額を確認する
□ 引き上げ分の人件費増加額を試算し、次年度予算に反映する
まとめ
最低賃金の引き上げは、事業主にとって負担増と受け取られがちですが、見方を変えれば、「働く職員の生活を守るための土台が底上げされる」ということでもあります。
特に人手不足が続く保育業界では、時給水準が採用競争力に直結します。
今回の目安を機に、パート職員の時給だけでなく、正職員も含めた賃金表全体のバランスを見直す良い機会と捉えていただければと思います。
賃金表の見直しや、処遇改善等加算との整理など、具体的な対応についてお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。

